アンバウンド、グラベルの聖地
グラベルレースといえば、アンバウンド。熱心なグラベルライダーにとってアンバウンドはレース以上の意味を持ち、巡礼と言えるでしょう。フォロワーが夢に見るような泥と火の洗礼。
米国カンザス州にある、人口2万5千人の穏やかな街エンポリア。フォロワーが毎時間増え続けているサイクリングメッカ。
ウルトライベントの需要が増し設立されたグラベル。距離の長さと走る地表の困難度から、エクストリームスポーツのあらゆる条件を満たしたイベントと言えるでしょう。ゴルフのラウンドとは違います。
自身の限界を試すことが全て。約160キロの最も軽いコースから、恐れを知らないライダーのための約320キロ〜560キロコースがあります。後者レースの夜のライドを含み、睡眠不足と脚筋力の限界を試すことになるでしょう。
2006年に初めて開催された時には、世界的に有名になるなど誰も考えませんでした。カンザス州東にあるフリントヒルズの田舎道、約320キロのコースを34名のライダーが競いました。当時はグラベルバイクと呼ばれるバイクさえありませんでした。現在でもコースはほぼ変わりませんが、参加者は劇的に急増。
6月の初めの週末、エンポリアの街全体はあらゆるライダーを迎えるムードで賑わいました。
レースで通過する周辺地域も歓迎ムード。郊外のレストランはアンバウンドチーズケーキをメニューに載せ、メソジストの小屋はサイクリストを讃え、至る所にウェルカムサインとイベント通知のメッセージが掲示されています。エンポリアのバイクショップは48時間以内に数えきれないほどのCO2カートリッジ(二酸化炭素が圧縮充填されたボンベ)を売ったことでしょう。
極端に長い距離と技術的に困難なルートは、天候が更にハードルをあげています。2021年のレース中気温は40度近くまで上がり、2022年は雨天だったために泥との戦いでした。
土曜日の朝5時、エンポリアの6thアヴェニュー。SHERIFF(郡保安官)の車ライトがドラマチックなムードを漂わせています。現地のメジャーなイベントのため、多数の警察が見張っているのが見えます。スタート時間の6時に近づき、無数のドローンが舞い上がり、スタートライン数メートル後ろに待機。1000台以上のバイクが、無限のプロトンを形成しながら数分後にスタートラインを越えるでしょう。
アンバウンドのコースは広い道いっぱいに展開。部分によってはヒルがあり、凸凹が続く無限の道のりが広がります。半分進んだ地点で雨が降り始め、全員が悪環境に対応しなくてはなりません。
泥がレースの様子を一変し、ライダーは時折停止してタイヤの泥を取り除かなくてはなりません。コース全体が泥だらけとなり、ライダーの顔は泥まみれ。まるで地下から戻ってきたばかりの鉱夫のような様子です。
320キロはベストライダーで9時間22分、160キロでは5時間で制覇。CDC-GTチームのリディア・イグレシアス(200キロレースTrakaの勝者)は、160キロレースを女性ライダーの6位として5時間44分で完走。ダニエル・ラーソンは320キロを12時間で完走。レースの4分の1はトップで走行。3番目のライダーであるマリアは、128キロ地点で棄権することになりました。
レース翌日、日曜日の午後、カンザスシティ国際空港。以上な数の疲れた目をした旅行者が、巨大なスーツケースを押しながら空港内を歩いて行きます。カンザスの田舎道で力を出し切った様子が、彼らの顔から見てとれます。アンバウンドを完走することは苦しみと言えるでしょう。しかし、グラベルの聖地であることに間違いありません。